実験の成功
この実験の成功の鍵は事前に計画し練習することだが、天文愛好家のみなさんが「つかの間の現象」を撮影しようとするとき同じことだ。皆既日食で暗くなったときの電源確認や、三脚をボルトで固定して機材位置がズレないようにするなど、事前にできることはすべて行う。機材は木々に囲まれた草原に設置したので、風による影響は全くない。「ソーラーフィルタを外すこと」など、詳細なチェックリストを確認。皆既日食まで続く興奮のなか、どんな「うっかりミス」も避けたいところだ。
皆既日食の二日前には、極軸合せを適正に済ませ、いくつも測定画像を撮る。望遠鏡とカメラのセットアップの周りにはわずかなガードフェンスを囲み、四日間放置。みんな私の実験のことを知り、セットアップには触れないでいてくれた。キャンプ周辺には早々と他の機材もセットアップされていたが、問題は起こっていない。
皆既日食当日は、温度、気圧、湿度を記録するウェザーステーションを設置できたので、大気差を補正することもできた。実験中にかけた露出毎にチャイムで知らせるソフトもある。数秒ごとにチャイムが心地よく響き、家族や友人たちとスペクタクル楽しむことができた。
サンディエゴの自宅に戻り、詳細な画像処理を始める。私が望む以上の恒星がすべて確認できた。予定より早く解析を始め、最新ソフトの助けを借りながら、すべてを数か月で完了。ソフトはMaxIm DLとAstrometricaを使い、良好なシグナルを示し、コロナや近隣の恒星の影響を受けない恒星だけをまとめ、恒星の正確な位置を測定。いずれのソフトも演算方法が異なるが、自分の好みを差しはさむ合理的な理由もないので、それぞれの結果を平均化。このやりかたで、驚くべき精度で結果を得ることができた。
解析精度を上げるため、短い皆既日食で撮ったキャリブレーション画像を使う。そのため、重力偏向がない、太陽から約7度離れたところに望遠鏡を向ける。自動スクリプト制御による赤道儀なので、太陽の両側のキャリブレーション画像を撮ることができた。キャリブレーションが十分に行えたため、前回の皆既日食遠征で生じた問題を発見。一部、手動セットアップに伴う時間的問題があったが、現代技術がこれを簡単に解決してくれた。
真実の瞬間
相対性理論の数学によれば、太陽の重力による偏向は、太陽の中心から離れるほど減少するが、1.7512秒角を太陽の半径で割ることで求められる。しかしながら、これまで測定し変更た偏向定数はいずれも満足できるものではなく、前回の皆既日食では1.2〜2.7秒角、平均が1.9秒角である。
私の皆既日食画像を注意深く解析したところ、偏向定数をちょうど1.7512秒角で測定できた。パーフェクトな皆既日食にふさわしい、パーフェクトな結論!
私の測定値がたまたま正しい値になったとしても、私の不確実性は約3%。それでも、かつてない最高の精度で測定できたことは賛美に値する。この測定結果は、4月12日発刊のClassical and Quantum Gravityにで、より詳細なテクニカル書式で見ることができる。
偶然にも、恒星が放つ光の重力偏向をかつてない最高レベルで光学測定された結果が、LIGOが2つの中性子星の衝突から検出した4日後に発表される(S&T誌2018年2月号、32頁)。この2つの驚異的事象は、相対性理論の方程式によって数十年前に予測されている。やはり、2017年の8月はアインシュタインにとってすばらしい月だった。 ドナルド・バーンズ:引退した物理学者名であり、有名なエディントンの実験を注意深く再現したことで、アメリカ天文学会の2018年チャンブリス素人功労賞を受賞。 今後の10年で、持続時間の長い最高の皆既日食に4度遭遇する。 2019年7月2日(4分33秒)、南アフリカ 2024年4月8日(4分28秒)、北アメリカ 2027年8月2日(6分23秒)、アフリカ 2028年7月22日(5分10秒)、オーストリア、ニュージーランド 天文愛好家のみなさんも、この機会に各々の科学イベントを企て、エキサイティングなときをともに体験できますように!
偏向角: 著者は1973年に収集されたデータ(黄色の点)と、2017年に収集した自分のデータ(青色の点)を使い、偏向角が位置とどのように変わるのかを算出。太陽の縁から離れた恒星の見かけ上の位置は、太陽の近くにある恒星よりも偏向が少なく、相対性理論でこの関係性を示す定数は1.7512。著者のデータは、アインシュタインの予測とほぼ完ぺきに一致する。