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現在、さまざまな形式の天体望遠鏡が市場に流通しています。多様な使用目的に応じて望遠鏡が選べる今、望遠鏡を複数所有するベテランアマチュアにとって、それぞれの光学系の特徴を深く追求できる、これまでにない「望遠鏡趣味の時代」と言えるでしょう。

一方、必ずしも使用目的がはっきりとしない初心者が、適切な望遠鏡を手に入れるのは容易ではなく、望遠鏡選びは地図を持たない旅行のようなものかもしれません。ここでは、それぞれの「光学系」が持つ特色をまとめています。ニーズに適した選択の手助けになれば幸いです。



>>> 屈折望遠鏡 <<<
天体望遠鏡の代表的な形式。現代の屈折望遠鏡はすべて、対物/接眼レンズとも凸系で構成される「ケプラー式」です。対物レンズの形式は2(1)群2枚構成の薄肉密着系が主流ですが、3枚玉や4枚構成など、新たなレンズ形式を備えた望遠鏡までバリエーションが広がっています。かつてはF15クラスの長大な鏡筒ばかりでしたが、現在ではF10を超える鏡筒はほとんど姿を消し、F5〜8の短焦点屈折望遠鏡が、エントリークラスからハイエンドまで主流になっています。屈折望遠鏡は、収差補正のレベルにより、以下の2つのカテゴリーに分けることができます。



● アクロマート屈折
現在のアクロマート屈折は、レンズ素材(BK7+F2)が低コストで、しかも研磨が容易なため、すべて安価な普及機として流通しています。特に、近年、第三国製造による大口径(10cm〜15cm)で短焦点(F5〜8)の鏡筒が、大量生産で格安に出回り、ちょっとしたアクロマート屈折ブームをもたらしました。もちろん、レガシーな素材と設計では、かつての長焦点アクロマート鏡筒と性能を比較するのは無理な話です(アイピース性能の向上により、低倍率でさえ欠点を指摘することは容易です)。現在のアクロマート屈折は、口径を欲張らず(10センチ以下)、比較的大きなF値(F10またはそれ以上)で、ブランド品を選ぶことで、初心者の方が天体望遠鏡として使える性能を手に入れることができるでしょう。


● アポクロマート屈折
1970年代後半に登場したアポクロマート屈折は、高性能屈折望遠鏡の主流として今も君臨しています。人造蛍石結晶や異常部分分散ガラスを凸系に用いることで、色収差の良好な補正が可能になるので、特に写真撮影に好適との評価から、F値を明るく(F5〜8)設計した「フォト・ビジュアル」鏡筒がアポクロマート屈折望遠鏡の典型的なスタイルです。鏡筒の短焦点化は、搭載する架台の小型軽量化につながり、システム全体で簡単に野外に持ち出せるスケールに収まります(注1)。この恩恵は絶大で、天体撮影ブームに拍車を掛けました。
銀塩フィルムが撮影の主流であった時代は、中・大判フィルムに対応できる鏡筒やアクセサリーの存在が評価され、また、「撮影用鏡筒だから」という性能的妥協が広く受け入れられていたので、短焦点アポクロマート屈折の持つ潜在的な欠点(注3)が明らかになることはありませんでした。近年、CCD素子などによるデジタルイメージングが主流となり、銀塩フィルム時代とは桁違いの結像性能(注2)が要求されています。より広帯域にわたる色収差補正、球面収差補正が必須となり、その結果、従来の2枚玉だけではなく、独自のレンズ構成を採用した鏡筒も登場しています。天体望遠鏡としての性能向上が、撮影メディアの世代交代によって推進されるのは皮肉っぽいですが、少なくともこうは言えそうです。「よく見えるアポクロマート屈折を求めるなら、デジタルイメージングに対応できる鏡筒を選びなさい」と。

注1) ただし、眼視目的では、F6程度の短焦点鏡筒であっても、口径12センチを超えるとマッチする経緯台が無く、赤道儀に搭載して観望を行うことになる。

注2) 異常部分分散ガラスはBK7と比べて低屈折率なので、薄肉密着系の設計では曲率半径を小さくとることになり、結果、球面収差が増大する。撮影用の色補正は各色の収差曲線が絡めることでキャンセルできるので、設計上球面収差の増大は問題ではなかった。

注3) フィルムの感光物質である臭化銀粒子の最小径が約25ミクロン(テクニカルパンフィルム)。CCDでは10ミクロン以下の微細なピクセルの集合体で、かつフィルムのようなイラジエーションが発生しない。そのため、回折限界の結像が要求される。


>>> 反射望遠鏡 <<<
屈折望遠鏡の欠点である色収差が原理的に発生しないメリットで、反射望遠鏡の制作がはじまりました。現在では屈折望遠鏡の高性能化に伴って、これはあまり重要なメリットではなくなっています。ただし、屈折望遠鏡では現実的でない大口径機(30センチ以上)を比較的簡単に制作できるのはこの光学系の特徴です。
また、反射望遠鏡は主鏡という大きなガラスブロックを鏡筒に抱き、鏡筒内を光路が往復し、かつ、反射面では「入射角=出射角」の法則が成り立つので、鏡筒内の熱対流(主鏡の熱放射が要因)が観測を阻害する大きな原因となります。大口径機では温度順応に配慮した鏡筒構造が必須であると言えます。
ミラーのみを用いて望遠鏡を構成する純反射望遠鏡は、次の2つのカテゴリーに分けることができます。



ニュートン式反射望遠鏡は、放物面主鏡1枚の精度でその光学性能が決まる、天体望遠鏡光学系の中で最もシンプルな形式です。鏡筒底に配置した放物面主鏡の焦点を筒外に出すため、光軸上に平面鏡(斜鏡)が別途必要になり、中央遮蔽が避けられませんが、これは反射光学系すべてに共通の特徴です。口径比(F値)は、30センチ以上の大口径ではF4〜6、20センチ以下ではF4〜8と、屈折式と比べて短焦点になっています。短焦点鏡ではコマ収差の発生が顕著になりますが、「パラコア」など高性能なコマコレクターが、撮影・眼視ともこの問題をキャンセルします。かつて銀塩フィルム時代にはレデューサーが使われましたが、CCDイメージングが主体の現在では、その結像性能の劣悪さから廃れています。いたって単純な光学系ですが、心臓部である放物面主鏡の高精度な研磨が難しいという現実があります。高精度研磨には、客観性のある精度評価が行える干渉計などの設備が前提になります。測定データに客観性の欠けるナル・テストやフーコーテストでは、精度基準そのものが曖昧になってしまいます(この検査による1/20λのプレミアムミラーが、干渉計にかけると1/2λだったという実例もあります)。また、研磨面・・研磨痕の有無など、の状態も、屈折式以上に敏感にその見え味に反映するので、職人芸的な研磨のセンスも要求されます。外見は同じように見えるニュートン鏡筒ですが、メーカーごとの光学精度の格差が非常に大きいので注意が必要です。
ニュートン鏡筒は、公共天文台での主望遠鏡(メートル級の口径まで)として、また観望に特化したスタイルであるドブソニアンや、赤道儀に搭載してフォトビジュアル鏡筒として、さまざまな目的に使われています。また、シャープな光学系のメリットを利して、惑星観測家の多くは口径20センチ以上のニュートン鏡筒をその観測に活用しています。





焦点が主鏡の後方の筒外に位置するため、大口径機であっても観察位置の確保が容易という特徴があります。そのため、公共天文台の一般観望用望遠鏡として40センチ以上鏡筒が各地に設置されています。また、主鏡が放物面鏡(副鏡は凸双曲面鏡)の古典的な純カセグレン鏡筒の場合、副鏡を平面鏡に置き換えることでニュートン式になり、重量級の測定装置が使えるカセグレン焦点と併せて、2つの光学系を活用できるメリットから、過去において天文台の主望遠鏡として盛んに採用された時代がありました。
純カセグレン式は、F値の小さな放物面主鏡もさることながら、凸双曲面副鏡の制作がきわめて困難なので、凸球面副鏡と楕円面主鏡の組み合わせによるドール・カーカム式のカセグレン鏡筒が大口径据付機でも見られます。
アマチュア向けのカセグレン鏡筒は、口径20センチクラスが市販され、コンパクトで軽量な移動観測に適したスタイルであることと、惑星観測にも使えるシャープな光学系という点に価値があります。ただし、F値が10を超す大スケールに加え、サブバッフル内径の制限から実視界を広くとれず、眼視専用の望遠鏡として使われることがほとんどのようです。


>>> カタディオプトリック望遠鏡 <<<
光学設計と生産技術の向上により、シュミット・カセグレン式を筆頭に、シュミット・ニュートン式、マクストフ・カセグレンとその応用系、モディファイされたリッチークレチアン式(俗称:準リッチークレチアン)など、さまざまなカタディオプトリック光学系が市場に登場しています。中央遮蔽に加え、反射面と透過面がそれぞれ2面ずつあり、天体望遠鏡の中では光量損失の最も多い形式なので、デメリットが生じる可能性のある小口径機(8センチ以下)は生産されません。いずれの形式もコンパクトに設計され、なかでも専用フォークマウントに搭載した「架台一体型天体望遠鏡」は、その容易な取り回しにより、初心者向け天体望遠鏡マーケットを席巻しています。



米国の2大専業メーカーが1970年代から一貫して大量生産を続け、この光学系を世界的に普及させました。きわめてF値の小さな主鏡と曲率半径の小さな凸副鏡、複雑な非球面形状の補正板からなるシュミット・カセグレン光学系は、たいへん制作の困難な望遠鏡で、専業メーカー以外、商用生産が不可能なのは歴史が証明してるほどです。多くの実製品を見る限り、完璧な光学性能を実現する望遠鏡ではありませんが、それを補って余りある軽量コンパクトな外観と、フォト・ビジュアルとも、さまざまな用途に使える多目的性を獲得しています。また、その爆発的な普及により、サードパーティー製のアクセサリーが多彩に揃っていることも他の光学系を圧倒し、米国規格の接眼部品(俗称:アメリカンサイズ)の世界的標準化への中心的な役割を果たした望遠鏡でもあります。現在流通している鏡筒は、口径12.7センチ〜35.5センチ、F値は10を標準としたスケールの大きな光学系ですが、凸副鏡を有するカセグレン系の中では最も鏡筒長が短い形式で、フォークマウントとのマッチングに優れています。20センチ以下のクラスではマウントと一体でも、たいへんコンパクトなシステムになります。双眼装置をはじめとする接眼部品の互換性の高さもあり、口径20センチクラスまでは、現在でも、手軽に観望できる望遠鏡の最右翼にある形式と言えます。ただし、筒先が補正板でふさがれているため筒内気流の解消には、前出のニュートン式の同口径機より数倍時間がかかるのが普通です。
なお、近年、優秀な設計性能を有したカタディオプトッリック系の望遠鏡が続々と登場しています。デジタルイメージングの時代になり、かつての専業メーカーもその生産主力を他光学系に移行しています。爆発的な普及を果たしたシュミット・カセグレン望遠鏡も、いよいよ凋落期を迎えたと言えるかもしれません。





かつて、アマチュア向けの製品としては、限られたメーカーのみが生産する極めて高級な望遠鏡の形式でした。90年代に入り旧共産圏国製造によるマクストフカセグレンが流入し、そのリーズナブルな価格も相まって、アマチュア用天体望遠鏡のひとつのカテゴリーとして瞬く間に定着しました。反射面を含みすべての光学面を球面で構成できる生産上の利便性もあり、現在では、さまざまなメーカーが、この光学形式のバリエーションを含め、普及品から高級品まで、多彩な望遠鏡群を構成しています。シュミット・カセグレン式と同じく、筒先に補正板(メニスカス補正板)を配置した形式ですが、補正板が厚く、かつ主鏡のF値も大きいため、堅牢な鏡筒が必要となり、同口径のシュミット・カセグレン鏡筒より重量級になります。また、口径20センチを超えるクラスでは、温度順応の遅延が大きな問題になり得ます。そのため、冷却ファンを内蔵した対策品も市販されているほどです。この口径を境にコストが大きく上昇し、これがネックとなり、25センチ超の大口径機は(シュミット・カセグレン式と違って)普及していない状況です。近年、国内外のメーカーから口径25センチを超え、かつリーズナブルなコストを実現したこの光学系のバリエーションが登場しています。補正板を副鏡セルに組み込むことで筒先を解放し、温度順応の促進と同時に軽量化も実現した優れたスタイルですが、スパイダーが必要になります。大口径マクストフ・カセグレン鏡筒実現の現代的な解決法として、今後の注目株です。
現在、マクストフ・カセグレン望遠鏡は、口径9センチ〜25センチクラスが市販されています。12.7センチ以下の小口径機はマウントと一体化されたシステムとして大量生産され、初心者向け天体望遠鏡として広く普及しています。口径15センチクラスからは独自設計品も登場し、天文アマチュア向けの主力機種になっています。要は、合成光学系なので、完成鏡筒での実現性能がすべてです。高い研磨技術と、正確な測定ができる検査設備を有し、明確な出荷基準に基づいた全品検査を実行し、失格品をふるい落とせる品質管理のできるメーカーの製品のみが、この光学系の真価・・高性能屈折望遠鏡に遜色のない落ち着いた星像と滑らかな階調、を見せつけてくれるでしょう。