株式会社ジズコ

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テレビュー ビッグパラコアタイプ2、by Dennis di Cicco (April, 2015 Sky&Telescope)

ごくかぎられた天体撮影市場ニーズにも応える、非凡な潜在力を秘めたデザインの力!

良いところ

●短焦点ニュートン鏡筒のための非凡なコマコレクター

●ラージフォーマットCCDチップに見事に対応

●第一級の天体撮影をお手軽な価格で実現

悪いところ

いまのところ、自己解決型ユーザーが主な対象


今回、私の30センチF5ニュートニアンを、ファーストクラスレベルの天体撮影システムにしてくれた鍵がビッグパラコアである。表題のグランド渦巻銀河M33は、KAF-16803チップを搭載したCCDカメラに、赤、緑、青のフィルターを使い、40分の露出を掛けた画像。本誌でご紹介する画像はいずれも、仲間のシアン・ウォーカーにより画像処理されている。

これまで、天体撮影用に設計された世界有数の望遠鏡を何台もテストしてきた。“高価であること”がすなわち“良い望遠鏡である”との考えもあろう。セレストロン、ミード、スターウォッチャ、ステラビューなどの最高級品だけでなく、オフィシーナステラ、プラネウェイブ、タカハシ、テレビューなどの製品も使ってきた。ここでご紹介する画像は、そのいずれの望遠鏡で撮ったものではない。それどころか、安価に入手したミード社の30センチ口径ライトブリッジドブソニアンで撮ったものだ。ただ、このドブソニアンにテレビュー社の新製品ビッグパラコア タイプ2コマコレクターを装着するだけで、ご覧のとおり、これまでのテストで得たベスト天体画像とくらべても何の遜色もない画像を撮影できた。

“悪魔は細部に宿る(細かいところにこそ落とし穴がある)”と言われるが、“テレビュー社のビッグパラコアを装着しただけ”で“ご覧のとおり”とはいかない。“望遠鏡にはビッグパラコアを装着するための3インチ接眼部を装着”し、“天体撮影ができるように、望遠鏡を赤道儀に搭載する”という重要な作業が伴う。また、撮影に適した光量を確保するために、より大きな斜鏡にアップグレードした。私の場合、改造のための部品をすべて手作りしたが、市場で入手できる部品も少なくない。望遠鏡のシステムについては後述するが、まずは、かつてドブソニアンだった反射望遠鏡をワールドクラスのアストログラフに変身させてくれたビッグパラコアについて語ろう。

なぜコマコレクターなのか

19世紀末の天体愛好家にとって、写真乾板が主力検出器として目の代わりを果たすようになる。望遠鏡は本質的に巨大なカメラレンズとなり、終わりのない口径肥大化を招き、屈折望遠鏡から、パラボラ主鏡を備えた反射望遠鏡へのシフトしていき、1940年代後半、口径5.1メートルのヘール望遠鏡の完成でその頂点を迎える。パラボラ鏡はまたニュートン鏡筒の心臓部でもあり、今日、多くの天文ファンには、鏡筒単体の「ニュートニアン」より、架台と一体になった形式で「ドブソニアン」として親しまれている。

ビッグパラコアが可能にした球状星団M15のしまった星像と詳細な分解能。赤・緑・青フィルターで1分間露出画像を12枚重ねた。

多くのメリットのあるニュートニアンも、コマ収差は悩みの種。パラボラ鏡特有のコマ収差により、星像は、望遠鏡の視野中心から周辺に向って彗星の尾のように流れる。観望を楽しむユーザーは、星像がシャープにみえるアイピースの視野中心に、視界を移動することでコマ収差に対応する。しかしながら、ピンポイントな星像を広い写野いっぱいに撮りたい天体撮影家にとって、コマ収差はやっかいな存在。素子が大きくなればなるほど問題は大きくなり、天体撮影に適した短焦点ミラーを配した望遠鏡ならさらに悪化する。ミラーの口径に関係なく生じる収差だ。たとえば、口径5.1メートル、F3.3のパラボラ鏡を備えたヘール望遠鏡の場合、その視野内で許容できる星像が得られる視野径は1/2”にも満たない。さいわい、複数枚のレンズで構成される補正レンズを焦点近辺に配置することで、コマ収差のない星像領域を広げることができる。

天体撮影家のために設計されたビッグパラコアには、多くのデジタル一眼カメラや天体用CCDカメラと組み合わせるためのスペーサーやアダプターがオプションで用意されている。さらに、幅広いラインナップのテレビューアイピースで眼視を楽しむためのチューナブルトップ(オプション)もある。

今回ビッグパラコアで最初に撮影した望遠鏡は、数年前、他のコマコレクターのテスト用に自作した箱型の合板に40センチ、F3.2のパラボラ鏡を配したもの。“ファーストライト”画像は、ポラリス周りの星夜を10秒間露出した無較正画像。KAF-16803 CCDのラージフォーマットフレームいっぱいにピンポイント星像を捉えた。フレーム四隅のケラレは明らかだが、左の陰影は、パラコアがセットアップの光路内に伸びているためで、望遠鏡のレイアウト上やむを得ない。

ヤーキス天文台のフランクEロスは、20世紀初頭の米国で最も優秀なレンズ設計者である。直径約3インチの視野でコマを良好に補正できる200インチ望遠鏡用コマコレクターをはじめ、初代のコマコレクターをいくつも開発した。その後、チャールズGウェインはさらに広い視野でコマ収差の補正を実現する。 これまで生まれては消えた、アマチュア天文ファン向けコマコレクターもいくつかあり、今日、2インチ接眼部を備えた望遠鏡用に設計されたコマコレクターがわずかに残っている。眼視専用、撮影専用、眼視・撮影両用の設計がある。

これまで、APSサイズ一眼デジカメでの撮影用に、口径20センチF3.3のニュートニアンをくみ上げるきっかけとなったコマコレクターをはじめ、いくつかのコマコレクターをテストしてきた。結果に満足した私は口径30センチF4のニュートニアンを手掛けたが、コマコレクターの有効写野を超える大きさのセンサーを備えたCCDカメラやデジタル一眼カメラに撮影機材をアップグレードした後、ニュートニアンの製作を止めている。テレビュー社がビッグパラコアタイプ2を発売するまでは、ON Semiconductor(元Truesense Imaging…元Kodak)のポピュラーなKAF-16803など、ラージフォーマットを十分にカバーできるのは、Astrosysteme Austria (ASA)だけであった。ビッグパラコア同様、ウェインの設計をベースにしたASA最小のコレクタも、3インチの接眼部が必要になる。

ビッグパラコアタイプ2を使ってみる

2インチのパラコアタイプ2(本誌の2011ホットプロダクトのひとつ)の成功を機に、テレビュー社のポール・デレカイは、KAF-16803のようなラージフォーマットCCDと、F3までのパラボラ鏡の組み合わせで使える3インチのビッグパラコアタイプ2設計。昨年4月のNEAF(North-east Astronomy Forum)で紹介された数か月後、私は初期ロットのひとつを借りてテストした。

ビッグパラコアのバックフォーカスは80mmと十分(ASAのコマコレクターの3割増)、デジタル一眼カメラはもとより、天体用CCDカメラ、使い慣れたフィルターホイールなどの機材を余裕で装着できる。多くの場合、ビッグパラコアにロープロファイルのオフアキシスガイダーを使っても十分なバックフォーカスがある。

ビッグパラコアは望遠鏡の焦点面を72mm外に出す(その間を調整するスペーサーがオプションで用意されている)。ロスが200インチ望遠鏡に設計したコマコレクターとは異なり、ビッグパラコアは望遠鏡の実効焦点距離をわずかに伸ばすので、その分望遠鏡のF値も大きくなる。倍率が1.15xとなるので、F3ミラーにパラコアを併用すると、F3.45の撮影システムになる。

これまでいくつかのコマコレクターをテストしてきた経験から、長時間露光にセットアップされたニュートニアンは言うまでもなく、3インチ接眼部を備えた短焦点ニュートニアンという稀有な望遠鏡でビッグパラコアをテストすること自体、困難だがやりがいがある。赤道儀仕様ではないが、私には40センチF3.2のパラボラ鏡を備えた合板製の箱型ニュートニアンがある。接眼部をビッグパラコア装着のため3インチに変更し、路上につっかえ棒を立てた状態で、日周運動が遅く、数分露光をかけても星の動きが最小になる北極星周りを撮影することができた。

KAF-16803を備えたCCDカメラでの最初の露出は注目に値する。がさつなセットアップにもかかわらず、ビッグパラコアは、完璧に丸く、フレームいっぱいに事実上ピンポイントな星像を結ぶ。ケラレは四隅にわずかにあるも、クリア、赤、緑、青フィルターを介して露出したときの焦点ずれが認められない。

頭のなかでは、口径40センチの望遠鏡を天体撮影用に使う構想がにわかに浮かんだが、ビッグパラコアの長時間露出をテストするために、手持ちの口径30センチのライトブリッジドブソニアンを採用することにした。暫定的なテストセットアップではあったが、あとから考えてみれば、ライトブリッジとビッグパラコアの組み合せを、最初からずっと活用し続けるアストログラフとするのも悪くない。このレビューは望遠鏡の製作記事ではないのでその詳細には触れないが、わずかなコストでこの記事掲載の画像が撮れたことは注目に値する。とりわけ、このレビューのため撮った画像と、百万円をゆうに超える望遠鏡をテストしたときの画像とを比べると、一考の価値がある。

“is.gd/Pacacorr”には、ビッグパラコアで撮影した本誌以外の画像が掲載されているので、ご参照いただきたい。

レビューに記載したとおり、ビッグパラコアを口径30センチのミードライトブリッジ鏡筒に装着し、長時間露出をテストした。撮影の好機が訪れ、パラマウント ME IIにライトブリッジを搭載したが、その不釣合いさは否めない。実際、ライトブリッジの本体にライトシュラウドを巻き付け、鏡筒内側に位置するパラコアのフロントレンズに迷光が届かないよう筒先フードも取りつけた。セットアップした撮影機材は、身長193cmの私を超えている。








ビッグパラコアのレンズは比較的望遠鏡の焦点面に近いが、写野に極めて明るい星があっても、驚くほどゴーストやハロがなく露出できる。このプレアデスは、ブルーフィルターを介し、30分の露光をかけた。

口径30センチ反射鏡とビッグパラコアのテストで長時間露出した画像のいくつかは、KAF-8300が組み込まれたCCDカメラで撮った。KAF-16803よりも小さなCCDであるため、ケラレはほんのわずかで、ケフェウス座の大きな散光星雲IC1396の中に存在するVDB 142は、フラットフィールド補正なしで処理されている。




















KAF-16803 CCDで、プレアデスの1分露光無較正画像の四隅からカットし、左右に振り分けたフル解像度画像からは、チップ四隅のケラレによる減光だけでなく、星像の質が判る。KAF-16803がカバーする対角線上のイメージサークルは52mmである。




ビッグパラコアのフィールドノート

前述のとおり、天文市場には、F値が小さく、長時間露光の撮影用に作られた大口径ニュートニアンがない。したがって、ビッグパラコアをどのように使えばよいのか、読者に具体的に語ることはできない。すなわち、ビッグパラコアは主に、ニュートニアンを自作できるユーザーの手にゆだねられているといえる。それでも、私のレビューは、ビッグパラコアを撮影に検討している人には参考になろう。

この記事では、フィルターを介して露出してカラー合成したが、いずれも合焦は固定して露出した。フィルター交換時に望遠鏡の合焦をやり直すことはなかった。単に、グリーンフィルターで露出したときに最初の合焦を決めただけ。合焦を微調整することで、赤と青のフィルターで露出したときの星像を、ごくわずかながらもきりりとした星像を得ることはできる。完璧さを追及するなら、こうした微調整も考えられるが、実際には不要だと思う。

私の場合、前提的なセットアップのため、40センチ、30センチミラー用の鏡筒本体を改造する際に、いくつかの近道を選んだ。たとえば、手持ちのカメラは、望遠鏡の光束に対して完璧な四角形上に位置することはない。にもかかわらず、さまざまなテストを重ねることで、KAF-16803 CCD上のフルフレームで、ビッグパラコアを介した星像が良好に硬く・丸く結ぶことを確認できた。撮れた画像を詳細に見ると、まずは合焦不良により星像がわずかに伸びているのが判り(ガイド不良による現象に似ている)、さらにピントが外れると、案の定、星像が膨らんでしまう。

とにかく、ビッグパラコアのポテンシャルは感動もの。F値の小さな主鏡を搭載した貧弱なニュートニアンのイメージング性能を、最近の魅惑的な光学設計を備えた豪華なアストログラフと肩を並べるレベルまで向上させるのは明らか。私のような“保守派”のアストログラファーに、望遠鏡を予算内で製作できる可能性の世界を提供してくれた。


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